伝奏記 社会科授業づくり奮闘記

某中学高校教師の「こんな授業をしてみました!」という社会科授業づくりブログです(/・ω・)/教師修業は果てしなく。日々精進…!

この世のはじまり

最初の授業です。

 

歴史とは過去の人々が紡いできた軌跡であり、そこにどんな想いや意思、葛藤があったのかを授業で考え、歴史観を磨いていきたいと思っています。

過去の人々の想いに寄り添っていくことが、歴史を理解することにつながっていくと考えています。

授業はプリントで行います。

 

今回の単元は教科書には記載されていませんが、歴史(特に日本史)を学ぶ上で、旧石器時代からではなく、神話からはじめたほうが、日本人が何を美しいと考え、何を正しいと考えていたのか…など、日本人の心を理解するためには効果的であると考えています。

 

 

単元「この世のはじまり」

 

本時の目標:昔の人は日本の誕生をどう考えていたのか を考える 

 

 

【説明】

〇今日から授業に入るよ。今日は、旧石器時代よりももっと前、神様の話をしようと思う。

 

【作業】

〇日本列島をフリーハンドで書こう

・まずは何も見ずにひとりで書かせる。間違っていてもOKだと強調。

・その後に自分の住んでいる県を記入。

・隣同士で交換し見せ合いっこして共有。

いろんな日本列島が出てくる。サッと書く子もいれば、細かく書く子も。

中には鏡になっている子も(笑)

・地図帳や教科書を見て答え合わせ。

 

※この作業でのねらいは3つ。

 1.雰囲気を柔らかくすること。

 2.授業では必要なことは話してもOKということを知ってもらうこと。

 3.わからないことは恥ではない。わからなければ教えてもらえばいいということをしってもらうこと。

 

【説明】

〇いまやってもらった作業は、自分の頭の中の知識を映し出してもらったもの。

書けた人は素晴らしい。書けなかった人は、今後書けるようになっていけばいいよ

と伝える。

 

 

 

【発問1】

〇日本で一番尊いとされている神様の名前は? 性別は?

・個人で考えてもいいし、周りと相談してもいい。

 最近はパズドラなどのゲームにも登場したりしているので、チラホラ名前が挙がる。

・答えたい人・もしくは挙手などで答えてもらう

・答えは天照大御神。太陽神。性別は女性。

 

【発問2】

〇では、この神様が祀られている神社の名前は? 何県にある?

・答えは伊勢神宮三重県。場合によっては三重県の場所も地図帳で確認。

・20年に一度、式年遷宮が行われること、カップルで参拝したらやきもちを焼いて別れさせられてしまうかも…という小話もはさみたい。

 

【説明】

〇女性の神様が、国の中で最も尊いとされている国は非常に珍しい(多くの国は男性の神様)。日本という国は、GHQの占領下にあった時期はあるものの、本質的な部分はかわらずに今日まで歴史をつくっている。これからその日本の地理・歴史について学んでいきます。

 

授業プリントへ。発問とともに空欄を埋めていきます。

 

【説明】

〇日本列島誕生のメカニズムは、すでに科学で解明されているんだよ。

 

【発問3】

〇日本列島は、何年前に誕生したのだろう?

・個人→ペアで考える。

・答えは3億年前。

クラスによっては「1000年前!」と元気に答える生徒もいて、「いま西暦何年?」「2019年!」「じゃあ1000年前に日本が出来たのは変だよ」という一幕があったりして、教室が笑いに包まれる

 

【説明】

〇中国大陸に地殻変動が起こり、はしっこが切り離された。その切れ端が日本列島。

 

【発問4】

〇日本列島の北の海を何という?

・正解は日本海

 

 

【説明】

〇この切れ端が少しずつ形を変えて、今の日本列島の形になったんだ。

 …と、ここまでが科学で解明されている日本列島の誕生。でも、大昔の人はこんなのことわかんないよね。では、昔の人は日本列島がどうやって誕生したと考えていたんだろう?

 

【発問5】

〇日本って何の国?

※質問が通らないようなら、外国人に日本を紹介するなら~と変えてます。「日本といえば〇〇の国なんだよ」と紹介するとしたら?と言った具合に。

・和、米、平和、島国、忍者、サムライ、文化…

 といった様々な答えが出てくる。

 

【説明】

〇どれも正解。では、今回のテーマに沿って…昔の人は日本を「神の国」と考えていたんだ。712年に書かれた古事記には、日本の誕生について書かれているよ。

日本史Bであれば、編者の稗田阿礼太安万侶にも触れておきたい。

 

古事記には、はじめ地球はドロドロとしたスライムのようなものだと書かれている。

 このときの神様は姿かたちがなく、ボンヤリとした姿だったが、世代交代?を経るにつれて、人の形をした神様が誕生した。伊邪那岐伊邪那美の2人は、矛でこのドロドロした塊をかき交ぜた。すると世界(地球)が誕生した。

 ちなみに、この2人の関係は兄妹だ。

 

【説明】

〇2人は天界から降りてきて、自分たちの生活する土地をつくろうとしたんだ。

 2人はエレベーターのようなもので地上に降りてきた。で、どうしたかというと、結婚したんだよ。

・「兄妹で結婚していいの!?」という反応がある。「神様だからいいんです」などというやりとりで盛り上がる

 

〇まず結婚にはプロポーズをしなければいけないよね。プロポースにはシチュエーションが大事だ。だから2人はエレベーターの後ろから回り込んで正面に歩いていき、トンとぶつかったんだ。で、「あ、ごめんなさい…。…!まぁ!なんて素敵な人!」「きれいだ!」みたいな。少女漫画にあるようなベタな展開だね。で妹の伊邪那美がお兄ちゃんの伊邪那岐にプロポーズして2人は結婚したんだ。そして最初に生まれた子どもは…肉の塊だったんだ。2人はその肉の塊を川に流したんだ。

・「何それ!」と何かしら反応をしてくれる。

 

〇で、もう一回プロポーズからやり直した。エレベーターの後ろから回り込んで正面でぶつかって妹の伊邪那美がプロポーズ。で結婚。生まれた子どもは泡だった。

 2人はこの泡も川に流したんだ。

 

・「それ、いいの?」とツッコミがはいる。「神様だからいいんです。でも、マネしちゃダメ」

 クラスに元気な生徒がいると、雰囲気を明るくしてくれます。

 

〇で、2人は悩んだ。どうして子どもが生まれないのかって。神様も悩むんだよね。

 そして2人は気づいた。ここ、男子はよく聞いておいてね。プロポーズは男性からしなきゃって気づいたんだ。世界的に見ても、プロポーズは男性からが多いよね。なんでだろうね。男子、がんばれよ。

 ともあれ、2人はもう一度仕切り直した。エレベーターの後ろから回り込んで正面でぶつかって、今度はお兄ちゃんの伊邪那岐がプロポーズ。結婚。そして子どもが生まれた。

 このとき生まれた子どもが「淡路島」だよ。

※生徒たちは驚きで思い思いの反応を見せてくれる。「人からは人が、神様からは神様が生まれる」という先入観があるからだ。それをひっくりかえしてやると授業は知的になるし、印象に残る。

授業ではこういうことを意識して、常に新しい発見がある時間にしたい。

余裕があれば2人が地上に降りてくるときにつかったエレベーターのようなものが倒れて、天橋立になったといわれていることも付け加える。

・地図帳で淡路島の場所を確認。

 

〇そこから九州、本州、四国、佐渡壱岐対馬隠岐といった島々が生まれた。神様はなんでもありだね。こうして日本列島が誕生したとされているよ。

 

【発問6】

〇でも、今の日本列島と比べて足りないところがあるね。どこだろうか?

・正解は北海道と沖縄。ここから昔の人々が、この2つの地域を日本と認識していなかったことがわかる。

 日本史Bクラスであれば、そういった話にもつなげたい。

・地図帳で佐渡隠岐対馬などの場所も確認しておきたい。

 

【説明】

〇日本列島を誕生させた伊邪那岐伊邪那美は、今度は属性を持った神様を産むんだ。

 水の神様・風の神様・土の神様・鉄の神様…ポケモンみたいなものだね。

 ここから、昔の人が「自然現象は神様のお力なのだ」と考えていたことがうかがえるね(アニミズム)。

 そして火の神様・カグツチノカミを生んだ時、伊邪那美は大やけどを負って死んでしまった。悲しみに暮れた伊邪那岐は、伊邪那美に会いに黄泉の国に行く。

黄泉の国の入口ゲート前で伊邪那岐は話しかける。「伊邪那美いるか?」と。中から返事が返ってくる。「いますよ」。伊邪那岐は語り掛ける。「すごくさみしいんだ。帰ってきてくれ」と。伊邪那美は返す。「相談してきます。少し待っていてください」と。

でもね、男は待てないんだよ。好きな子に告白して「3日待って」とか言われたらもう気が気じゃないでしょ。ご飯ものどを通らない。もしかしたら鶴の恩返しでも襖を開け

たのはおじいさんなんじゃないかな(笑)

結局、伊邪那岐は待てずに扉を開けてしまったんだ。そこには伊邪那美が立っていた。

伊邪那美は死者だから体が腐っていた。そんなところを夫に見られたもんだから怒り狂って伊邪那岐を追いかけ回した。これが日本初の夫婦喧嘩です。やっとのことで伊邪那岐は現世に帰ってきた。日本初の離婚です。

怒りが収まらない伊邪那美はこういった。「愛するあなた、よく聞いて。私はこの怒りを忘れない。だからそっちの世界の人間を1日に1000人、こっちに引きづり込んでやるわ」 伊邪那美はこう返した。「愛する妻よ。お前がそのつもりなら、私は1日に1500人この世界に新しい命を誕生させよう」

別れても「愛する」と添えているのが素敵だね。この瞬間、人の「生」と「死」が決まったと古事記には記されているよ。

人の「生」と「死」は現代でも永遠のテーマ。昔の人はなぜ人は生まれ、死んでいくのかという謎に、こういう答えをつけたんだね。

※家庭事情によっては死や離婚に配慮しなければならない場合もあるので、その場合はここの話は省くかやんわり話す。離婚→喧嘩別れ など

 

【説明】

〇黄泉の国から帰ってきた伊邪那岐が顔を洗うと、右目・左目・鼻から神様が生まれた。

 天照大御神月読命須佐之男命だ。それぞれ天界・夜の世界・海の世界を守る仕事をしている。

・授業ではイメージしやすいように厚紙に絵を描いたものを黒板に貼っています。

 

〇でも須佐之男命は仕事をさぼってしまったので、天界から追われることになってしまった。お姉ちゃんである天照大御神に謝りに行こうとするんだけど、手ぶらではいけない。そこで大宜都比売(おおげつひめ)という穀物の神様を頼った。

 大宜都比売は、「だったら穀物を持って行きな!」と穀物を出してあげるんだけど、出し方が汚い。体の穴という穴から穀物を出すんだよね。「こんな汚いもの持って行けるか!」と須佐之男命は大宜都比売を斬り殺してしまった。すると殺された大宜都比売の身体から蚕・稲・粟・麦・大豆といった穀物が芽を出し、その種が地上に蒔かれた。これが穀物の誕生だ。米とかがいつできたか不思議に思ったことはない?昔の人はこの謎に、こういう答えをつけたんだね。

 

【説明】

〇その後、国作りは完成へと向かいます。最後まで話すのキリがないので、ここからは本で読んでね。この神様たちの活躍の舞台になったのが出雲だ。

 

【発問7】

〇出雲は今の何県?

・答えは島根県

 

 

 

【発問8】

〇日本では旧暦で10月を何という?

・答えは神無月。

 

【説明】

〇日本中の神様が、出雲大社に集合するからだ。だから出雲では神無月とは言わずに、神有月というんだよ。島根県が神聖な場所だということがわかるよね。

日本史Bでは、島根県には高さ48mの大神殿があったことや、銅剣が358本見つかった荒神谷遺跡や、銅鐸が39個見つかった加茂岩倉遺跡があることにも触れたい。邪馬台国以外の勢力が島根県にあったことを示している。

須佐之男命がヤマタノオロチを倒したのも出雲。島根県のある川は鉄分が多く含まれているので、赤く見えることがあるという。須佐之男命が剣でヤマタノオロチを倒し、その血で川が赤く染まったというが、それに関係するのかもしれない。

 

【説明】

〇日本列島を治めていたのは大国主という神様だ。天照大御神は天界から降りてきて、大国主に「日本を譲りなさい」と要求する。普通なら戦争になるよね。でも条件付きで大国主はOKしたんだ。これが国譲り伝説。

 ここで2人の神様がしたことは、「話し合い」。これは日本人が大切にしてきた精神かも知れない。日本人は「話し合う」民族なんだ。

 この精神は604年の憲法十七条(和を以て貴しとなす…)や、1867年の五箇条の御誓文にも表れている。

 みんなも学校行事や部活ではいろいろもめることもあるだろうけど、「話し合う」ことを大切にしてほしい。

 

〇ちょっと長くなったけど、これが昔の人が考えていた日本列島の誕生。当時の人々の考えや思想が垣間見えるよね。これが歴史のおもしろさ。

 昔の人の心を読むとることが、歴史の醍醐味です。

 

【まとめ】

〇本時の内容を文章化させる。難しい生徒には感想を書かせる。

 

 

 

 

 

作業や説明を含めると、2時間ほどかかりますが、最初の授業なので生徒たちはしっかりと聞いていました。「聞く」ことが難しい場合は、作業を増やしたりして、クラスによって対応しています。